GONOSEN-II

文学、歴史、時事問題。 とりあえず、私はこう思う。

アメリカの大学生の英語力 (21)

「私がアメリカで教えていた当時、アメリカの大学生たちはろくな英語を書けませんでした。宿題の添削をしていると、あまりにも英語がひどいので、数学そっちのけで英語のチェックをしていたくらいです。professorの「f」を2つダブらせるといった単純なスペルミスならまだいい方で、主語が三人称単数で現在形なのに「s」をつけなかったり、そもそも主語がなかったりと、とにかくめちゃくちゃでした」

「国家の品格」 第二章より

『ありえない。 まったくありえない……』。

藤原氏の言葉を読んだ時、私はそう思った。スペルミスだけに関しては、多少認められるが、それにしても、藤原氏の思っているほど重要な問題ではないだろう。

英語のスペルミスには三種類がある。

一つは、単純に綴りがわからない場合のミスである。長い言葉、普段使わない言葉、外来語(特にフランス語に由来する単語がわずらわしい)……、いわゆる「難しい言葉」を書く時に見られがちな失敗だ。

次は、同音語を無意識に入れ替えってしまう種類のミスだ。「There」を「Their」と書いてしまうのは代表的な例である。

最後のスペルミスは、「タイポ」と呼ばれ、タイプの打ち間違いである。だが、単なる打ち間違いの他にも、こんなことがある。普段は友人との文通の中で「Thanks, John」と簡単に書いてしまうが、親しくない相手に対して、「Thank you, Mr. Peterson」と書かなければならない。この場合、「Thanks you, Mr. Peterson」と間違えることがある。つまり、指で覚えた動きで、要らない「s」を「Thank」につけてしまったわけだ。

言うまでもなく、スペルミスのほとんどは、教養の無さや国語の無知を表すような大問題ではない。無意識に犯してしまう「不注意」だ。ちゃんとした文書やリポートだと、何度も読み返して、こうしたミスを直すのが基本で、誰もが心掛けることである。だが、それでも気付かない場合があるので、ある程度の間違いを皆で赦し合うしかない。

ということで、professorの「f」が二つ書いてあった話は想像できる。そして、藤原氏にはそこまでのこだわりがあるのなら、仕方がないと思う。 (もちろん、生徒を注意しながらも、もう少し寛容な心を持ってもらいたかったのは本音だが……)。

しかし、三人称単数の「s」を付けなかったり、主語を完全に省略したりするような話は、私にはどうしても信じられない。外国人の留学生だったら、まだそういうことはあるかもしれないが、藤原氏は母国語として英語を話すアメリカ人のことを言っている。となると、どんな癖のある喋り方をする人でも、書く時にはそんなミスをするはずは無い。

とはいえ、私は数学者ではないので、数学学会における独特の表現法、もしくは、文書の書き方の決まりでそうなってしまうことはあるのかなと疑問に思った。念のため、私はちょっとした調査を行うことにした。

藤原氏の指摘する三種類の国語ミス(綴りの誤り・三人称単数の「s」を付けないこと・主語の省略)を説明して、そのようなミスが担当する学生のリポートに見られるかどうかを、私はメールで20人程の現役数学教授に問い合わせてみた。その中には、藤原氏が助教授として務めたコロラド州立大学の教授も多く、その時代からずっと働き続け、藤原氏を覚えている方も数人いた。

代表的な回答をここで翻訳しておこう:

『英語を話す生徒たちには、そんな間違いをする人はいません。数学独特の言葉遣いや表記の仕方がそうさせることもないでしょう』

『いや、そんな間違いを見たことがないな』

『私は、コロラド州立大学で20年間も教えてきましたが、藤原氏が言っているような間違いをする生徒を一度も見たことがありません。作文がさほど上手ではない人ならもちろんいます。しかし、数学の薀蓄についても同じことが言えるでしょう。残念ながら、完全に準備できている生徒はいません! とはいえ、藤原氏が言っている話はちょっと信じられませんね』

『スペルの間違いは多いですが、動詞のSが抜けていることなんて、私は見たことがないです』

回答の中には、次のような意見もあり、正直に言うと、カリカチュアを平気で利用する藤原氏の主張については、これは私自身のやむをえない解釈でもある。

『そんな間違いが稀に見られたとしても、それが標準的であるかのように主張することは、無責任である。そんな著者を赦せません。高校生の作文でさえ、そんな間違いなんて滅多に見られないでしょう。筆者は意図的に事実を曲げているとしか思えません。

この人はなぜそうやってアメリカの大学生をけなしているのだろうか? 私が聞きたいのはそれだ。そこまで馬鹿げたことを言うほどであれば、何かしらの下心はあるに違いない』

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1 Comment

  1. athena

    これは確かにおかしいですね。一つ一つの文字が四角いスペースにおさまって均等に配置されてる日本語と違って、英語はアルファベットの組み合わせで一文字を作るのでスペルミスが起こりやすかったり、またそれを見つけづらかったりしますよね。

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