GONOSEN-II

文学、歴史、時事問題。 とりあえず、私はこう思う。

トーマス・ジェファーソンと奴隷問題 (19)

ジェファーソン自身には大勢の奴隷がいたことは否定できない。こんな人物が人間の平等を唱えても、単なる偽善ではないか? やはり、アメリカという国家、アメリカという社会は、大きな嘘の上に建てられたのだろうか?

藤原氏はそう思っているようだが、ジェファーソン自身のことや独立宣言布告後のアメリカの歴史を冷静に考えた方がいいだろう。

先ず、ジェファーソンは奴隷制度廃止論を一生懸命唱えた人物でもあったことを忘れてはならない。当時、奴隷は完全な私有物として考えられていたので、いろんな意味で財産問題が絡んでいた。例えば、奴隷はローンの担保として扱われることもあったため、借金のある人は、自分の奴隷を解放したくても、借金がある限り、解放することは法律的に不可能だった。実は、ジェファーソンも正にそんな状況にあり、「奴隷を解放すべきだ」と確信を持っても、実際にはそれが出来ないため、彼は大いに悩んでいたらしい。

独立宣言の下書きを読んでみると、奴隷制度を新大陸の植民地に導入してしまったイギリスを、ジェファーソンは批判するつもりだったことがわかる。しかし、最終的には、宣言のその部分は南部出身政治家の異議の下で取り消されてしまった。

とはいえ、ジェファーソンの奴隷解放運動はそこで終わらなかった。後のリンカーン大統領は別として、ジェファーソンほど奴隷解放に尽くした政治家はいなかったと言っても過言ではない。例えば、1769年(独立宣言より七年前)、ジェファーソンがバージニア州の議員として提案した州の奴隷解放令は法律になり損なったが、1778年には、ジェファーソンのおかげで、バージニア州への新奴隷売買は完全且つ永久に禁止された。

そして、1784年には、ジェファーソンが提案した「北西部条例」の一つの条件として、北西部から新しく合衆国に編集される州には、奴隷制廃止が義務付けられた。

最後に、大統領の任務中の1807年に、ジェファーソンは全国における奴隷売買の禁止令を発した。これがために、アフリカからの奴隷輸入は完全に止められた。それまでに輸入されてきた奴隷が同時に解放されなかったことは残念だったかもしれないが、更なる奴隷輸入が禁止されたことは大きな進歩だったことは否定できない。

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1 Comment

  1. 芋三郎

    ジェファーソンが個人的に立派な人物だったとしても、ジェファーソンはアメリカの理念を代表する公的人物ですので、ジェファーソンが人間を奴隷としてモノを所有するように所有していたということは、日本人にとって有用な情報となります。

    戦後の普通の日本人は、リンカーンによって奴隷が解放されたと聞かされて、心の問題はともかく、法的にはその時点から差別がなくなったと信じています。

    従って、1960年代のキング牧師の公民権運動というのも特別に関心がないとよく理解されないのだろうと思います。

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